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【1549年12月 雪】
 
 ブルガリアの冬は寒い。
 王立図書館史書室のデスクを前にした私は、それこそ猫の様に体を丸めて、
 時折両手に息を吹きかけて暖を取りながら筆を走らせていた。
 
 戦争が決まったのである。
 廃墟の如きブルガリアを、来る1553年1月まで発展させてから、
 隣国、浦安鉄筋家族への侵攻する事が決まったのである。
 ニャー王家の王位継承権第一位にして勇者である猫勇者ニャルスの肝入りの戦争計画で、
 この戦にかける国内の意気込みは高い。
 潮に至っては二人に分かれて、農業開発と城壁強化に勤しんでいる。
 そもそも、潮とは二人いたのか。見事な登録なのか。
 
 かくいう私も、欧州統一の第一歩であるこの戦にスムーズに勝利するべく、
 登用文の執筆に、こうして頭を悩ませていた。
 だが、どうにも文章が捻り出せない。おそらくは空腹のせいだろう。
 
 まずは空腹を満たそうと王立図書館を出ると、雪がしんしんと降っていた。どうりで寒いはずである。
 近場の食堂『猫の尻尾』で暖かいものでも食べようと小走りで店に向かう。
 こうも寒い日は皆外に出たくないのか、店は空いていたが、その一角に見知った顔を見かけた。
 
「ニャルス王子、お食事ですか?」
「そうだにゃー。最近つけめんにはまってるにゃー」
 そう言って箸を掲げてから、ニャルスはつけめんを一気に啜った。
 
 つけめんであれば、酔って路上に正座する事もあるまい。
 
 
 
 
 
【1553年1月 曇り】
 
 浦安鉄筋家族戦は速やかに終了した。
 しかし、休息の時はわずかなものである。
 ニャルスは返す刀でResistanceと時津風に宣戦布告したのだ。
 我々は最果ての地トルコの復興を適度な所で切り上げて、ブルガリアに帰る事となる。
 
 とんぼ返りの疲労も馬鹿にならない歳に差し掛かっている私は、
 憂鬱な気持ちで、トルコに向かう馬車に揺られていた。
 長時間の移動となるが、馬車の中は活気に満ちている。
 それと言うのも、最近国内で、アイギスとかいうゲームが人気な為だ。
 
 シャルロットやナナリー、ソフィーにソーマにレン、そしてもちろんニャルスといった武将らが
 アイギスの話題で盛り上がっているのだが、アイギスを知らない私は話題に入っていけない。
 とはいえ、ニャーキングダムで皆の輪に入っていけないようでは、
 仮に亡国の憂き目にあったとして、他国では、なおさらうまくやっていけるはずがない。
 
 
 私は思いきってアイギスの話題に入ってみた。
 入ってみたとは言っても、可愛い女の子の話しか聞けない辺り、悲しいものがあったが、
 武将達は皆暖かく質問に答えてくれた。
 
 会話の中で、ニャルスは非課金を薦めてきた。
 ニャルスは課金をしすぎてゲームが温くなってしまったそうなのだが、
 そこでレンが、これまでに幾ら注ぎ込んだのかとニャルスに尋ねた。
 
猫勇者ニャルス@トルコ > 「もう25万くらいいったよ><」 (06/07/(Sun) 22:22)
 
 それだけあれば、臼砲が五つは買える。金で敵を殴るとはこういう事なのだろう。
 私はポケットに手を入れ、財布の中身を確認した。
 せいぜいできるのはデコピン位のものだった。
 
 
 
 
 
【1557年3月 曇り】
 
 Resistanceを倒した我々は、時津風との開戦を控えていた。
 開戦前に少しでもトルコを整えようと、民には血税を納めさせ、
 我々もまた、商人から必死に金を巻き上げて、開戦準備を急いでいた。
 しかしながら、残念な事に私はその様な商人を見つけられず、相撲大会でお茶を濁す事しか出来なかった。
 
 暇を持て余した分、戦争準備くらいは頑張らなくてはならない。
 部下から、今月ついに念願の職人町が出来上がると聞いていた私は、
 皆が次の建設計画の為に商人達をカツアゲしている間に、職人町の兵器工房の暖簾を潜っていた。
 
 目当てはもちろん、政治家ご用達の攻城兵器である。
 店にはズラリと、ピカピカに磨かれた兵器が並んでいる。
 投石機、大筒、国崩し、どれも悪くはない。
 だが、やはりここは5万兵器である。
 非常に高額だが、今の私には、農民が血反吐を吐いて納めた年貢を換金した金がある。
 
 
「親父、うす砲をくれ」
「うす砲……? そんなもの、うちには置いてないよ」
「うす砲だよ、うす砲! 分からないのかよ!」
「置いてないといったら置いてないんだ。お客さんも分からない人だな!」
 
 なんたる親父だ。兵器工房の主ともあろうものがうす砲を知らないのか。
 はげた親父の口論をするうちに、互いにエスカレートして、ついには襟に手を掛け合ってしまう。
 ……職人工房に次の客が来たのは、その時だった。
 
「親父さん、きゅう砲が欲しいお^^」
「へい、毎度!」
 やってきたのは、政治家仲間のニャンコスだった。
 ……そうか。
 そういう事だったのか。
 
「……親父、俺にも、その……きゅう砲を」
 酷く赤面しながら、俺は改めて注文した。
 
 
 
 
 
【1564年02月 晴れ】
 
 兵器工房のはげ親父が売った臼砲は湿気ていた。
 せっかく敵拠点イタリアの城壁を破壊する機会を得たというのに、
 私の臼砲はウンともスンとも言わず、私は泣く泣くブルガリアへ帰国した。
 最前線から届く便りによれば、イタリアと敵最後の拠点であるスイスは、ニャルスが落としたらしい。
 悔しい気持ちはあったが、はげが悪いと自分に言い聞かせて、私は自尊心を保つ事にした。
 
 戦後の各都市は荒れに荒れ果て、ブリガリア以外の都市は荒廃しているが、おたおたしてはいられない。
 欧州南西部を制した大国ロッソストラーダとの開戦が決まっているのだ。軍靴の音は、すぐそこまで迫っている。
 ここをうまく整えるのが政治家の仕事である。
 
 
 ブルガリアで拗ねる暇もなく、私はスイスへと赴いた。
 噂には聞いていたが、荒廃ぶりはすさまじい。
 商店の類は殆ど建っておらず、城壁は荒れ果て放題。
 無頼漢は街を闊歩し、民は立ち上がる為の技術も持ち合わせていない。
 世紀末は、ここにあった。
 
 途方に暮れている所に、後から街人のホーチミンがやってきた。
 スイス攻めではフットワークの良さを見せた、放置民という看板に偽りを持つ男である。
 ホーチミンは私を見つけると、近づきながら声を掛けてきた。
 
「先程、中立になったトルコを攻めてきたのですが、仕損じてしまいました。
 いやあ、困りましたね、ははは。後は他の方にお任せしますよ」
 延々『ここはスイスの街だよ』とでも言うのかと思ったが、意外と饒舌な男である。
 
 
 
 
 
【1571年01月 晴れ】
 
 ついにロッソストラーダとの戦争が始まった。
 急ごしらえとなったスイスで正面からぶつかるのは危険だと考えたニャルスは、守備を指示した。
 後方担当以外全員が拠点に集まっての、伝家の宝刀猫肉守備は見事成功し、
 ロッソストラーダの開幕一斉攻撃を受けても、スイスは政治家層にギリギリ触れられた所で耐え切った。
 
「ロッソストラーダもこんなものか」
 私は、幾多の層の守備隊を攻めあぐねているロッソストラーダ軍を、スイスの城壁から眺めて鼻息を漏らした。
 暫く観察を続けていると、ロッソストラーダ軍は一度補給に戻る。
 ここまでは普通の流れなのだが、暫し待ってもロッソストラーダ軍が戻ってくる気配がない。
 ニャーキングダムの守備に舌をまいて攻撃を中断したのか、それとも遠国に滅亡の気配を感じて登用に備えたのか。
 いずれにしても、攻撃は終わったようだ。
 攻めるは今を置いて他にはない。
 
 
 私はファルコネット砲隊を引き連れ、意気揚々とドイツに出かけた。
 目的はもちろん、ロッソストラーダの打通都市の破壊である。
 取扱説明書を熟読した甲斐もあり、ドイツ攻めでは臼砲が炸裂する。
 きっとスイスでは、皆の労いの言葉が待っている事であろう。
 胸を張ってスイスに帰る。
 おや、何か様子がおかしい。
 ログが、赤い……?
 
・ [撃退] 1戦目:問註所 統景はスイスの城壁を破る事が出来なかった!(計略+0)(10日22時8分)
・ [撃退] 1戦目:ADAはスイスの城壁を破る事が出来なかった!(計略+0)(10日22時9分)
・ [撃退] 1戦目:レーベはスイスの城壁を破る事が出来なかった!(計略+0.5)(10日22時12分)
 
 慌てて帰国した私は徴兵指示を出し、Onlineで皆に見つかる事がないよう、暫し自室に閉じ籠った。
 
 
 
 
 
【1576年06月 曇り】
 
「守備隊、次、早く出ろ!」
「弾もってこい弾!」
「焼き鳥食べるにゃー」
 
 スイスの城壁に、怒号がこだまする。
 ロッソストラーダの一斉が、炸裂したのである。
 それを受けつつ、我々も一斉を強行する事となったのだが、
 ロッソストラーダの攻勢は激しく、我らが拠点スイスは城壁を晒してしまっていた。
 
 先日惑わされた誤報、ラウンジ滅亡が事実であれば、戦況はまた違ったものになっていたかもしれない。
 くしゃくしゃに丸められた五通の登用を恨めしく睨み付け、私は自室を出てスイス兵舎に向かった。
 兵舎では各武将が兵隊の調練に励んでいるが、いずれも新兵が多いように見える。
 兵舎長に進捗を確認したが、今月守備に付けそうな部隊はないとの事であった。
 
「これはブルガリア撤退の準備をした方がよさそうだにゃー」
 同じく訓練の進捗を確認しに来ていたニャルスがぼやく。
「ニャルス王子、城壁守備兵は何人いるのですか?」
「6990人だにゃー」
 兵器を二つ三つ受ければ全滅させられる人数だ。
 ニャルスの言う通り、撤退も止む無しである。
 だが、惜しい。
 もう少し……もう少しスイスに城壁守備兵がいれば……。
 
 
「おー、ここがスイスですか」
 頭を抱えている私の後ろで、聞き慣れない声がする。
 振り返れば、やはり見慣れない男が立っていた。
 
「君は?」
「スイスの城壁と申します。スイスを死守する為に職を捨てて参りました!」
 男は力強く胸を張った。
 と同時に、男の背後で、城壁が雷のような音を立てて崩れ去った。
 
・【新規】新しくスイスの城壁がニャーキングダムに仕官しました。(11日19時47分)
・ [勝利] 2戦目:臆病者の一撃はスイスの城壁を突破した!(11日19時55分)
・【支配】[1576年06月]ロッソストラーダの臆病者の一撃はスイスを支配しました。(計略+3)(11日19時55分)
 
 スイスの城壁は、失職した。
 
 
 
 
 
【1588年4月 晴れ】
 
 ブルガリアは我々にとって最後の砦となった。
 トルコ、ギリシャも擁してはいるのだが、ギリシャは完全な堀状態で、トルコもちょくちょく敵襲を受けている。
 追い詰められた我々は、渾身の一斉に出たのだが、勝ったり負けたりが続いており、どうにもあと一押しが足りない。
 だが、我々の陣の中に、一つだけ気を吐いている陣があった。
 
「立小便!」
 元・コロナVIP郡の猛将、前田利常だ。
 帝釈栗毛で敵陣を駆りながら、あろう事か敵兵に小便をぶちまけ、騎馬武者がそれに続いている。
 とんがりコーン、ビクトリーム様、ジュリオといった名将達でさえ小便には勝てず、
 前田利常は瞬く間に三つの陣を潰してしまった。
 労いの言葉をかけようと、私は馬を降りた前田利常に近づいた。
 
「やあ利常殿、これは見事な働きぶりだ」
「立小便!」
「後学に是非お聞きしたいのだが、此度の快進撃の源はなんであろうか?」
「立小便!」
 なるほど、立小便であるか……。
 
 
 ――このままではオーストリアの突破は厳しい。
 この窮地に一部の役職者が集い、臨時の戦略会議が実施された。
 役職者の意気は盛んで、皆あれこれと新たな策を提案していくのだが、私にはこれといって策がない。
 会議室の末席で小さくなっていると、睡眠大臣のサボマニが眠そうな眼で私を見ながら声をかけてきた。
 
「あはは〜。シェリスは、なにか名案はないのかいー?」
 
 そんなものはない。
 本音はそうなのだが、そういうわけにもいかない。
 どうしたものかと俯いたその時、ふと、あの言葉が浮かび上がった。
 
「立小便!」
「立小便……?」
「立小便で、一体どうやって?」
 
 そういえばそうだ。
 立小便でどう戦えば良いのか。
 皆で敵大将カルロの陣を囲み、立小便をすれば、泣きが入るだろうか?
 これはいけない。前田利常に詳しく戦い方を教えてもらわなくては。
 
「それを知る為に、利常殿の小水を見学してこようと思う」
「「「………」」」
 私は何も間違っていないはずなのだが、皆の視線は痛かった。
 
 
 
 
 
【1594年12月 雪】
 
 戦況は膠着を極めてきた。
 互いに決め手に欠ける日々が続き、この日も我々の一斉攻撃はオーストリア政治家層には届いたものの、壁には至らなかった。
 この様な時に戦争戦争とカツカツ根を詰めても、まずパンクしてしまう。
 機が来るまでは力を抜く事も必要なのである。
 
 一斉を終えた私は、米巻きの指示を適当に終えると、この日は久々に町に繰り出してみた。
 季節は十二月。街中にはカップルが満ち溢れている。
 町の公衆便所に、ラウンジという掲示板が掛かっていた。
 幾多の落書きに混じって、巫女服の美少女が「今日も明日も独りぼっちです。」と嘆く婚活サイトの広告が張られていたが、
 このような美少女が行き遅れるようでは、街中のカップルも偽装者ばかりなのだろう。
 私は自分にそう言い聞かせる事で、自尊心を保った。
 
「妻よ……」
 雪降る空を見上げながら呟く。
 私にも妻と息子がいた。もう何十年も前の事だ。
 仕事そっちのけで相撲大会に興じる私に愛想を尽かし、妻は息子を連れて出て行ってしまった。
 私も、もう今年で齢60になる。
 いつまでニャルスに仕えられたものか分かったものではない。
 この際、妻は良いのだ。
 せめて、子だけでも帰ってきてくれれば、家督を継がせられるのだが……。
 
てんすい!ミ?@ブルガリア > 「?」 (06/14/(Sun) 21:22)
 
 嘆く私の傍を、昨年家督を継いだてんすいの息子が通り過ぎて行った。
 風が冷たい。
 
 
 
 
 
【1601年1月 雪】
 
「論功行賞を発表するお^^」
 
 ニャルスの普段通りの抜けた声が、王城大広間にこだまする。
 長年に至る至当の末、数ヶ月前、我々はついにオーストリアを攻略する事に成功した。
 戦争はまだ続くが、戦功著しい武将を諸将の前で労うべく、ニャルスは全武将を王城大広間に集めたのである。
 
「無論、落城は全員の力あっての事だお。まずは全武将の活躍を賞するお。
 その上で、中でも著しい活躍をした者をこれより賞するお。
 まず、呼ばれた武将は全員前に出るんだお^^」
 
 ニャルスはそう告げ、数名の武将の名を読み上げた。
 そして、その中に……私の名前はあった。
 やはりそうであろう、と内心頷きながら、私は他の将と共にニャルスの前に歩み出る。
 この度のオーストリア攻めで、私は臼砲を当てるという功績を挙げているのである。
 評価も、当然の事である。
 
 
「第五功、てんすい。
 ダークマターを以って、一撃でトルコを落として守備ループを崩そうという、敵将ジュリオの策略を読みきり、
 トルコ守備にてジュリオを見事封じ込めたお。一つの勝利とはいえこれは大功に値するお。
 よって、てんすいには金3000と宝物5点を与えるお^^」
「ミ?」
 本当に読んでいたのかは怪しい所だが、ニャルスの言葉を受け、てんすいが前に出る。
 ニャルスから目録を受け取ったてんすいは、元の列へと戻っていった。
 
「第四功、第三功。ニャンコス、サボマニ。
 両名は敵武将の偵察・情報収集にて多大な効果を挙げ、全ての戦勝に対して貢献したお。
 よって、両名に金5000と宝物5点を与え、爵位を一階級上げるお^^」
「ありだお^^」
「あはは〜」
 
「次に第二功、ソフィー。
 ブルガリアに迫る四武将の攻撃を封じた功は大きく、これがなければオーストリアを落とす前に国は滅んでいたお。
 よって、ソフィーには金10000と宝物10点に加え、爵位を二階級上げるお^^」
「潮だな^^」
 三人とも同じように目録を受け取り、戻る。
 
 残る項は第一功。
 それに対して、表彰候補者には私の他にラビーがいる。
 これはつまり、同率第一功というやつなのだろう。
 
「次、第一功、ラビー。
 ブルガリア防衛戦にてカルロ、JESIICA等の三将軍を封じただけでも功に値する上、
 オーストリアを落としたという大功績を挙げたお。文句なしに今回の第一功だお。
 よって、ラビーには金20000と宝物10点に加え、爵位を三階級上げるお^^」
「恐縮です」
 ラビーは謙遜しながら目録を受けとった。
 ……?
 私は?
 私はどうなのだ?
 
 
「最後にもう一つあるお^^」
 ニャルスが動揺する私に声をかける。
「なめてるやつで賞、シェリス。
 個宛にかまけて、臼砲を叩き込む機会を逃した罪は重いお。
 翌月打ち込んだとはいえ、結果論が許されるのは軍曹だけなんだお。
 罰として、オーストリアの先乗りトイレ掃除を命じるお^^」
 
 諸将が喜ぶ中、私は一人トイレで天を仰いで慟哭した。
 
 
 
 
【1601年02月 晴れ】
 
 事態は急展開した。
 欧州北を制したタオちゃん家が、ニャーキングダムとロッソストラーダに布告してきたのである。
 オーストリアの確保もそこそこに、今後の展開に向けて対策を考えなくてはならない。
 王城の廊下を歩きながら、どうしたものかと考えていると、てんすいと出くわした。
 
「??・・・?」
「やあ、てんすい。実は三カ国乱戦について、どうしたものかと考えていてな」
「??・・・?」
「ふむ。てんすいの母国には、三国志なる歴史書があるのか……」
 
 てんすいの言葉に興味を抱き、私は王立図書館の書架を漁った。
 無事三国志なる書物が見つかり、数日かけて三国志を読み終えてしまう。
 魏の立場で考えてみれば、呉と蜀が結託するとやっかいな事になるようだ。
 それを防ぐには、二国に仲違いをさせる必要がある。
 だが、その様な策を持ち合わせている者が、この国にいるだろうか……。
 
 
 町の公園を散歩しながら考え込んでいると、死んだ魚のような瞳をした猫月夜が、ベンチで野良猫と一緒に寝ていた。
 この男、今でこそ冬のベンチで寝ているが、その昔は大国の大黒柱として辣腕を振るっていたものだ。
 私は思い切って、猫月夜に今回の件について相談してみた。
 
「三国志ですか。やっぱり二国を争わせ、我々は力を温存したいですね」
「しかし、そう簡単にはいくまい」
「いや、三国志でも二喬とかいたじゃないですか。
 タオちゃん家に『カルロがタオちゃん家の二喬を欲している』とそそのかせば、
 タオちゃん家は激怒して、ロッソストラーダのみを攻めるでしょう」
 
 なるほど、二喬か。
 かの国の二喬といえば誰になるだろうか。
 二喬というからには、似た二人でなくてはなるまい。
 帰宅した私は、武将一覧を眺めてみた。
 
やっちまっタオ 225 22 23 24 95pt 270000 300000 21 52.3%
タオツー 17 211 23 25 120.5pt 270000 340000 19 65.6%
 
 こうも美しくない二喬では、なかなかに困難な策である。
 
 
 
 
【1613年7月 曇り】
 
・【死亡】ニャーキングダムの見習い騎兵ミーシャは死亡し、見習い騎兵ミーシャが家督を継ぎました。(17日1時56分)
・【死亡】ニャーキングダムのバイカンフーは死亡し、バイカンフーが家督を継ぎました。(17日2時0分)
・【死亡】ニャーキングダムの弓兵ソーマは死亡し、弓兵ソーマが家督を継ぎました。(17日2時8分)
・【死亡】ニャーキングダムの風見志郎は死亡し、風見志郎が家督を継ぎました。(17日2時11分)
・【死亡】ニャーキングダムの潮天使ソフィーは死亡し、潮天使ソフィーが家督を継ぎました。(17日2時13分)
・【死亡】ロッソストラーダのJESIICAは死亡し、JESIICAが家督を継ぎました。(17日2時13分)
・【引退】ロッソストラーダのゆうぎりは引退し、ゆうぎりが家督を継ぎました。(17日2時13分)
・【引退】ロッソストラーダのビッグカツは引退し、ビッグカツが家督を継ぎました。(17日2時13分)
・【死亡】ロッソストラーダのウェイは死亡し、うぇ〜いが家督を継ぎました。(17日2時19分)
・【死亡】ニャーキングダムの市松こひなは死亡し、市松こひなが家督を継ぎました。(17日2時19分)
・【引退】ニャーキングダムの史書官シェリスは引退し、史書官シェリスが家督を継ぎました。(17日2時32分)
・【引退】ロッソストラーダのカルロは引退し、カルロが家督を継ぎました。(17日2時37分)
 
 長きにわたる戦争に、諸将は疲労しきっていた。
 タオちゃん家介入による戦況の小康に緊張の糸が切れたのか、
 多くの将軍が引退・死亡した時期があった。
 そして、その将軍の中には……私の父の名前がある。
 
 
「まさかここが廃墟になろうとはな……」
 ぺんぺん草も生えなくなったドイツの廃墟で、私は深い嘆息を付いた。
 母と共に、父シェリスの元から逃げてドイツで平穏な日々を過ごしていた私を、
 父の部下がとうとう見つけたのは、この大引退時代の直前であった。
 シェリス様は先が長くない……部下の真摯な説得に、私は最終的に折れ、
 今ではこうして、二代目シェリスとして、ニャルス王子に仕えている。
 
 それは良いのだが、跡を継ぐなり私を待ち受けていたのは、とうとう訪れた三国乱戦であった。
 首都オーストリアから、とんぼ帰りでドイツに様子を見に来た私を待ち受けていたのが、
 三国間に挟まれて、荒れに荒れきったこの光景なのである。
 
 
「……おや?」
 ふと、物陰に白い鳥を見かけた。
 もう動物も居着かない土地になったと思ったのだが、そうでもないらしい。
 逞しく生きる生命に私は気分を良くし、鳥に手を差し出した。
 
「おいで。ほら、おいで」
「くええ!!」
「いてえっ!!!」
 
 ……鳥は鳥でも、ロッソストラーダの軍目付ろぼ吉は、
 私の手を突くと、フランスの方へと飛び去ってしまった。
 
 
 
 
【1614年01月 晴れ】
 
・【支配】[1613年12月]ニャーキングダムのぐるぐるはフィンランドを支配しました。(計略+3)(18日1時43分)
・【滅亡】[1613年12月]タオちゃん家は滅亡しました。(18日1時43分)
 
 三国志状態が終わった。
 我々はタオちゃん家の保持するポーランドを攻め落としたのだが、どうにも反撃が緩い。
 入ってくる情報によれば、時を同じくしてロッソストラーダがイギリス方面からタオちゃん家を攻めたらしい。
 結果、二国を相手取る事になったタオちゃん家の反撃はどうしても弱まったというわけである。
 
 その勢いは衰えず、一気呵成にタオちゃん家を滅ぼしたのだが、やるべき事は多い。
 最終決戦を左右するであろうタオちゃん家遺臣への登用執筆に、
 スウェーデンまで進撃してきたロッソストラーダとの北部争奪戦。
 それに、北部の戦況次第では拠点をオーストリアからドイツに移す事にもなる。
 論功行賞は全てが終わってからという事になり、まずは一同、登用文の執筆に追われる事となった。
 そうなれば、司書官である私の腕の見せ所である。
 登用のプロフェッショナル、ニャンコスに負けてなるものかと、私の筆は紙の上で濁流の如く踊った。
 
『時の川を流れる日々も、ついに最後を迎えるんだお。土地は荒れ、将は倒れ、民は嘆き、そして最後に一匹の猫が忘却の大地で小さく鳴くんだお。それは新たな時代の産声なんだお。』
 
 自分でも何の事だかよく分からない文章をCTRL+ACVでしたためる。
 ロッソストラーダも今は登用に掛かりきりのようで、攻めてくる気配を見せない。
 この欧州統一戦において最後となるであろう僅かな休息の時を楽しもうと、私は街に繰り出した。
 夜も遅いのだが、オーストリアの歓楽街の灯かりは衰えを知らない。
 旧臣のJohn Doeに教えてもらった雰囲気の良い店が営業していたので、暖簾をくぐってみる。
 カウンター席で一杯やっている男達の中に、バイカンフーを見かけた。
 
「やあ、お疲れ様」
「お疲れ様です。ロッソはまだ攻めてこないようですね。夜に弱いのでしょうか」
 バイカンフーの言葉が卑猥に感じられたのは、私の心が汚いからだろうか。
 
 
 
 
【1625年02月 晴れ】
 
 一斉攻撃が被った。
 それも先手を打たれている。
 王手を差すはずの渾身の一斉よりも一月早く、ロッソの一斉が炸裂したのである。
 
 敵兵が一連目から城壁間際まで迫り、ドイツは国中が浮き足立った。
 将軍は出兵中止の伝達や、消耗した兵士の徴兵に慌しく取り組んでいる。
 民達には次々と赤紙が送られるが、戦況から予測される結末は悲劇である。
 見送る者も見送られる者も、その表情に明るさはない。
 唯一顔色が良いのは武器や装飾品の売買に忙しい商人達だが、
 その裏では新領主の可能性があるロッソにどう取り入ろうか考えているのであろう。
 
 これは戦争である。多少の修羅場は致し方ない。
 だが、追い詰められた精神状態のままでは、好転するものも好転しない。
 やはり、ここは何か明るい話題が必要である。
 そう考えた私は、諸将の集まる緊急会議の場で、こう提案した。
 
 
「諸君、皇国の興廃はこの一戦にある。
 この防衛戦で救国の活躍を見せた者には、猫肉部幹部となる権利を与えようではないか」
「………」
 将軍達は、水を打ったように静まり返った。
 暫しの沈黙。
 そして――
 
「「「うおあああああああっ!!!!」」」
 会議室には皆の歓声が響き渡った。
 
「幹部だ! 幹部の座だ! 最高だ!」
「猫肉部第三幹部になれるぞ!!」
「やっと出た先制で活躍するアル!!」
「オレはやるぜ、オレはやるぜ」
 皆、思い思いにやる気を口にする。
 猫肉部幹部の座は、予想以上の奮起の素となったようである。
 
 会議室を出た武将達は、目の色を変えて防衛戦に取り組んだ。
 のだが……
 
● [勝利] 2戦目:ジュリオはドイツの城壁を突破した!(19日21時31分)
●【支配】[1624年11月]ロッソストラーダのジュリオはドイツを支配しました。(計略+3)(19日21時31分)
 
 奮起の素は間違っていなかったはずなのだが、我々はドイツを失った。
 なお、アズドラがその後のドイツ争奪戦で9連勝を飾った事を記す。
 
 
 
 
【1635年06月 曇り】
 
 敗走である。
 必勝の構えで望んだドイツ一斉を仕損じた我々を待ち構えていたのは、
 ロッソストラーダの乾坤一擲カウンター一斉であった。
 あえなくベラルーシにした我々は、地の利を大きく失うことになる。
 ウクライナロシアルート、ノルウェースウェーデンルート……
 二つのルートから攻め入る打通組の対応は決して容易いものではなく、
 幾つかの施設を破壊され、完全無傷なのはベラルーシ一つになってしまった。
 
 だが、このような戦況でも、ニャンコスやバイカンフーらは、
 諦めずに施設調整や反撃に取り組んでいる。なんとも頼もしいことだ。
 
 
 私は一時国政を離れ、ロシアの女子校、七森中学校へと足を伸ばした。
 国が争っていても、支配者や徴兵先が変わるだけで、民達の生活が大きく変わる事はない。
 杉浦綾乃も在籍していた七森中では、のどかに学園祭が開かれるようで、私とニャルスはその見学に出かけていた。
 
猫勇者ニャルス@ベラルーシ > 「JCが作ったたこ焼食べたいお」 (06/21/(Sun) 16:31)
 
 ニャルスはたこ焼きをご所望のようである。
 私も私で、浴衣姿の女子中学生を見物できるのが楽しみである。
 にやにやと締りのない表情で校門をくぐると、女子中学生達が無邪気に出迎えてくれた。
 
「ニャルス王子、シェリスさん、ようこそいらっしゃいませ!」
「今日は存分にお楽しみください!」
 歓声が飛び交う。
 うむ、中学生とはこういうものでなくては。
 我々は満足げに頷きあい、まずはたこ焼きのブースへと足を進めた……その時だった。
 
「きゃー、ニャルスよ! ニャルスが濁ったワニのような瞳でこっち見てるわ!」
「シェリスもいるわ! 警備員、警備員!」
 歓迎ムードが一変した。
 なぜか学生達は急に私達を恐れ、警備員を呼びつけたのである。
 
 突然の事態をよく飲み込めずにいる我々の元に、すぐに警備員が駆けつけた。
 なんだか分からないが、このままボサボサして明日の朝刊に載るわけにはいかない。
 今度こそ心を入れ替えます……は通用しないのだ。
 我々は、這う這うの体でとにかく逃げ出した。
 
・【支配】[1635年06月]ロッソストラーダのビッグカツはロシアを支配しました。(計略+1)(21日15時52分)
 
 
 
 
【1637年7月 曇り】
 
 ベラルーシが陥落した。
 我々に残された領土は、もう廃墟しかない。
 強いて挙げれば、技術が900を超えている聖地スウェーデンが墓場となるのだろう。
 
 スウェーデンを走るバスの中で、皆途方に暮れている。
 重い嘆息を零しながら、窓の外の光景を眺める者ばかりだ。
「最後にブリガリアのヨーグルト、食べたかったですわ」
「もうあの土地に帰ることはない……」
 前の席では生え抜きの猛将、シャルロットとミーシャが懐かしそうに呟いている。
 だが、私はその陰鬱な空気とは無縁であった。
 
 
「皆、聞いてくれ」
 ごとごとと揺れるバスの中で立ち上がる。
 皆の反応は重たかった。
「国は、もう滅ぶだろう。統一成らぬ事ほど悔しい事はない。
 ……だが、我々には統一の他にももう一つ、テーマがあったはずだ。
 なあ、ニャルス?」
「あっ!」
 ニャルスが目を丸くした。
「……アイギスだお!」
「……そう、アイギスだ」
 私は頷いて拳を握った。
 
 
「先週、皆に薦められてアイギスを起動した時なんだが、実は重過ぎて断念したんだ。
 本来であれば、そのまま二度と立ち上がる事のないゲームだったんだ」 
「………」
「だが、この国にいて長らくアイギスの名を見るうちに、ふと気がついたんだ。……アイギスには、R-18版がある事に」
「………!」
「皆、こんなギリギリになってしまってすまない。……私もようやく、アイギスに目覚めたよ」
「シェリス……!」
 
 皆が幸福そうな声を上げる。
 そうだ、我等はアイギスの子、アイギスの民。
 そして、今ここに、新たなアイギスの民が生まれたのだ。
 さあ、新世界の扉を叩こう。
 
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●【支配】[1637年07月]ロッソストラーダのぺっかりーんはノルウェーを支配しました。(計略+2.5)(22日0時7分)
●【滅亡】[1637年07月]ニャーキングダムは滅亡しました。(22日0時7分)
 
ニャーキングダム日記 完

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